推薦した酒井順子さんの文庫本
知人の奥さんがケガで入院することになり、「退屈なので、文庫本でいいから何か2~3冊エッセイ集を買って来てよ」と頼まれ、差し入れに何が良いかなアと、相談を持ち掛けられました。
「女性の好むエッセイって言われてもねェ。女性週刊誌なんか読まないから、流行の作家はわかんないなァ、普段読んでる男性向け雑誌の、ポストや現代や新潮で連載してる女性作家ならわかるけど…」
「誰でもよいからさ」
「じゃあ、林真理子、阿川佐和子、内館牧子、櫻井よしこ、ウーン硬派はやめよう…、酒井順子さんなんか良いんじゃないの? あっ、そうだ、佐藤愛子さんは…年齢が離れすぎかな…」
てなわけでその場は別れましたが、その後、知人に会ったら、佐藤さんと酒井さんを差し入れたらしい。
「女房は、佐藤さんは面白かったけど、酒井順子さんはチョット…って言ってたよ」
「酒井さんは不人気? そうかなァ…、なにを買ったの?」
と、そんなやりとりがあり、酒井さんの不評に合点がいかず、奥さんが読んだという酒井順子著『気付くのが遅すぎて、』を買って来て、私も読んでみました。週刊現代の連載エッセイをまとめた文庫本でした。
40ページほど進んだところで、こんな一節に当たりました。
〈ある地方都市に、とても有名なソープランドがあるそうです。全国からお客さんが集まるほどの名店であり、キャンセルは絶対にできないので、顧客達はまず飛行機を確保してから予約を取るのだそう 。「でも、女性がすごい美人かっていうと、そうでもないんだよね」とは、ある顧客の談なのです 〉
ウーン、これはマズイ…と思ったら、その後のエッセイで、
〈暑い一日、近所をぶらぶら歩いていたら、このあたりで「おわら」を開催します、との貼り紙がありました。越中八尾の祭りである。「おわら風の盆」を、東京にいわば“コピペ”して開催するらしい。〉
オーッ、富山の記事じゃないか。
と、喜ぶ間もなく、その次のエッセイで、
〈外国のアダルト画像を見ていると、下の毛についても「ありのまま」は許されないようで、男も女も全くの無毛。日本のアダルト画像に転じると、まだ男女ともにはやしている人が多く─以下略─〉
ウーン、またまた、これはマズイ…と思いながら読み進むと、その後のエッセイでは、
〈ドラえもんの映画を見に行ってみました。が、実は私、どちらかと言えばドラえもんより少し前の、オバQ世代。というわけでドラえもんの映画を観るのは初めてです。〉
オーッ、またしても富山じゃありませんか。と、気を取り直す間もなく、
〈長じて後、私は「週刊現代」に毎週、文章を書く機会をいただいているわけです。この雑誌には、エロ小説はもちろん、色っぽいグラビアも豊富。一生涯セックスを続ける手法や、エロ動画を安全に見る方法まで、解説してくれます。〉
ウヘー、こりゃまたマズイことになった。更に、そのあとのエッセイでは、
〈1月30日、新聞に派手な広告が二面にわたって載っていました。何でも1月31日は「愛妻の日」なのだそうで、「愛妻の日には妻に花を贈ろう」との、花屋さんとのタイアップ広告だったのです。
もう一方の面に目を移すと、そこには向かい合わせになった大小二人分の足型が描いてある。「ここに立って、夫婦でハグをしてみましょう」ということで、それは、ハグマットというものだそう。〉
わが知人は、このエッセイの中身を知っているんだろうか?
そして、終わり近くのエッセイには、
〈新幹線の開業によって、盛り上がっている北陸地方。私も開業当日、東京発の一番列車に乗って、富山に行ってきました。〉
オオッ、嬉しいことに、ここでまたしても、富山の記述じゃありませんか。
…さて、よく考えてみたら、富山関連の記述に喜んでいるのは私一人だけで、知人夫妻には、迷惑この上ない文庫本を紹介してしまったらしい。
(引用参考文献) 『気付くのが遅すぎて、』講談社文庫 酒井順子著 2017年11月15講談社