円周率の中で「富山1080」を探す
いつもの書店で、数学の専門書の書棚を眺めていました。
よくわからないたくさんの専門書の間に、判型A5の小さくてシンプルな装丁の本が挟まっていました。『円周率 100,000,000桁表 縮刷版』という書名でした。円周率と言えば、例の3.1415…のあれです。
ある本によると、この3.1415…は、憶えるのに語呂合わせという方法があり、例えば、次のように区切り
3.14 159265 358979 3238462 643383279 5028 84197……
「産医師 異国に向こう、産後厄なく 産婦みやしろに 虫散々闇に鳴く。御礼には 早よ行くな……」と、ストーリー仕立てにしたりするそうです。
さて、私が書店で見つけた件の書籍は、この円周率の数字を、100,000,000桁つまり1億桁までの数字を、200ページの紙数を使ってひたすら印刷しただけの物です。
一口に1億桁の表と言いますが、それは、1億個の数字が、窺い知れない法則で並んでいるということです。1ページに50万個の数字が、100個ずつの塊5,000個としてびっしり印刷され、それが200ページあるというだけの本です。数字の一文字一文字が、まるで大広間に敷き詰めた畳のひとつひとつの”め”のような印刷物です。肉眼ではとても識別できません。
好奇心が騒いでさっそく購入し、家で寝転がって眺めていると、家人が訊いてきました。
「何これ?」
「円周率の一覧表だよ」
「単なる数字の羅列なんでしょ?」
「そう言うなよ」
「細かすぎて数字が読み取れない。まるでスダレかタタミね」
「いや、そこが良いんだよ。壮観だろう? 円周率は”無理数”で、限りなく続いている…」
「それがどうしたの?」
「この本に印刷されている1億桁というのは、円周率のほんの一部分。しかし、今こうして、”無限”というものに触れているんだ」
家人は、何か言って、隣の部屋へ行ってしまいました。
それから3か月後、私は思い付きました。この円周率の中に、”富山”が潜んでいないか?と。
つまり、語呂合わせをしたら、“富山” は“とやま”、つまり“1080”じゃないかと…。駄洒落というなかれ、本人は真剣です しかし、この“畳”の本から“1080”を見つけ出すことは不可能でした。
虫眼鏡やコピー機で拡大してみましたが、解像度が悪くて、役に立ちません。
それから数日たって、再び書店で数学の書棚を眺めていたら、同じ版元の『円周率 1,000,000桁表』という本を見つけました。こちらは、文字が大きいので、因縁を感じて購入し、再び第1ページの先頭の3.1415からスタートして、“1080”を探していきました。
その結果、第2ページ末の2万個までの中で、4つも見つかりました。第11,601桁目、第15,931桁目、第16,036桁目、第16,216桁目に隠れていました。
それぞれ、その前後も含めてご紹介すると、
…937310804854…108410809618…390310801437…569010801149…
まるで、夜の星空で第2第3の地球を見つけたような気分です。それにしても、円周率を語呂合わせで暗唱する人は、1080の辺りをどんなストーリーになさるんだろうか?…これでもう十分、「富山1080」探しはやめました。
ところで、同じ版元から『素数表 1,000,000個』という本も出ています。素数というのは、2,3,5,7,11,13…という、1と自分以外に約数のない数、あれです。
そこで、再び“1080”の探索開始です。これが、あっけなくて、素数表は小さい順番に並んでいるので、案外簡単に見つかりました。
例えば第10,275番目、第10,276番目、第10,277番目、第10,278番、第10,279番目
108007 108011 108013 108023 108037 などの素数に、“1080”が隠れていました。いささか、拍子抜けしてしまいました。
(引用参考文献) 『円周率 1,000,000桁表』牧野貴樹著 同人集合暗黒通信団 1996年3月刊 『円周率 100,000,000桁表 縮刷版』真実のみを記述する会著 同人集合暗黒通信団 2019年10月刊 『素数表 150,000個』真実のみを記述する会著 同人集合暗黒通信団 2012年12月背表紙訂正刊 『数学のかんどころ22 円周率 歴史と数理』中村滋著 共立出版 2013年11月刊