柳田国男と『蝸牛考』

 書店で、ピッタリとくる本がないときは、たまたま目についた本をそのまま買ってしまうことがあります。

 そうやって今年の夏に買ってしまった本の1冊に、民俗学の大家、柳田国男(1875-1962)の『蝸牛考』(岩波文庫)があります。

 かねて柳田には興味があって、ちくま文庫の柳田国男全集を持っているんだけど、そして、それはほとんど読んでいなくて、紙袋に入れて書庫の奥のどっかにあるはずなのですが、この『蝸牛考』の論考は読んでいなかったこともあり、ぼんやり、うっかり購入してしまったというわけです。

 さて、折角だからと、読み始めると、これは蝸牛(カタツムリ)の日本各地の呼称の分布の、昭和初期の研究書でした。そして、なんと

 〈たとえば加賀・能登・越中は特に蝸牛の方言において、もっとも数多き小領主を籏立(そうりつ)せしめている土地であって、同時に蟷螂と雀とについても、沢山の方言をもっている。〉

 と、書いてあるのです。そうか、富山ってそんなに蝸牛の名前が多いのか?と、読み進むと、なるほど沢山ゾロゾロと出てきます。掲載順に紹介します。

ツノダシミョミョ 東砺波郡野尻村 
ツノツノミョミョ 同郡井ノ口村
ミョミョツノダセ 同郡出町附近 
カエカエツノダセ 氷見郡宇波村
ミョミョツノダシ 中新川郡上市町 
マエマエ 越中氷見郡神代村
メンメンカエブツ 越中高岡附近 
メンメンカエボ 同中新川郡大岩村
カンツンブリ 越中五箇山 
カエツブリ、カエツモリ 同下新川郡
カエカエツブリ、カエツモリ 同上新川郡針原 
カエツブリ、カエカエツノダス 同氷見郡宇波
デンデンムシムシ 富山、東砺波
デンデンガラムシ 富山、氷見
マイマイカタッポ 富山県一部
メンメンカエポポ 同県一部
メンメンカエボコ 同射水-海老江
カンツブリ 富山、東砺波-五箇山

(蛞蝓同名系)
マメクジ  富山県一部
カイカツギ、カエカツギ 富山、婦負-
カイカイクジリ 富山県一部
カイムシ、カイロウ 富山県一部 
(まだ続きますが、省略)

 なお、同書には、カタツムリ以外でも、当時の富山の習俗が散見されるので、それを抜き書きしておきます。

 〈富山県などでも渦はマイマイであり、またギシギシもしくはギリギリであった。 〉
 〈蛇のとぐろを-中略-富山近在ではサラになると謂う〉
 〈富山の附近では荷物を頭に戴く者が、その枕に使う円形の台をツンブリと呼んでいる。〉

          ◆

 晩秋の一日、欅の枯葉、栗の枯葉やイガ等を掃き集めて、今はダメですが空き地で焚火にすることが、私の住む土地の風景でした。

 うず高く積み重ねた枯葉や枯れ枝は、湿っていたりするとなかなか燃えなくて、白い煙の立つ枯葉の山に風穴を開けてみたり、ひっくり返したりして遊ぶのが、“手伝い”と称してたむろする子どもの楽しみでした。

 そんな時、濡れた落ち葉の中に冬眠中(?)のカタツムリを見つけ、あわてて掘り出して草むらに投げ込んだりしたものでした。あの時のカタツムリたちは、どうしているだろうか。

(引用参考文献)
『蝸牛考』岩波文庫 柳田国男著 2009年12月刊